ユーダリル
破壊された方は、堪らない。あの巨大な肉体で壊すのだから、跡形もなく粉砕してしまう。今回ユフィールを連れて行くということで、ディオンのお気に入りであった家が潰れた。
ディオンからの返事がないことに、肩を竦めてしまう。だがこうなったら、ユフィールを守るしかない。ウィルはユフィールの両腕を掴むと、自身の腰へと回す。そして、抱きつくように言った。
唐突なことに、すぐに抱きつくことはできない。しかし、速度が速度。抱きつかなければ、飛ばされてしまう。そう判断したユフィールは意を決し、ウィルに抱きつくことにした。
肌から伝わってくる、優しい温もり。それは温かいというより、心地良い。そして微かに聞こえるのは、相手の心音。好きな人に抱きついたことに、ユフィールの頭は真っ白になり、何も考えられなくなってしまう。抱きついた姿で固まり、そのまま目的地まで向かう。
急に静かになってしまったユフィールに、ウィルは声を掛ける。しかし、返事が返されることはない。何故ならユフィールの意識は完全に飛んでしまい、何も考えられずにいたからだ。
その時、ディオンの視界に、とんでもない光景が入ってきた。その瞬間、ディオンは泣き出してしまう。だが、それ以上の反応と行動が起こせない。今、ユフィールはウィルに抱きついている。
暴れた場合、ウィルが巻き添えを食らってしまう。流石にユフィールの所為で、ウィルに迷惑を掛けるわけにはいかない。ディオンは懸命に感情を抑え込んでいくが、物事には限界がある。
人間の恋愛感情など、飛竜がわかるわけがない。だからこそ、過激な妨害工作へと発展してしまう。
愛し合う――というのは今のところ正しい内容ではないが、いずれ二人は結婚をするに違いない。
いや、周囲が結婚を進めていた。よって、ディオンがどのような意見を態度で見せようが、無理だというものは無理。それ以前に、飛竜が人間の恋愛に口を挟むのは、少し間違いであった。
――もし、人間であったら。
そう考えると、怖いものがある。ディオンはウィルの相棒であり、弟のような存在。つまり、兄を取られたくない弟の心境。こうなると、ウィルの結婚式の時――間違いなく荒れる。
だが、ウィルがこのような心配はしない。無論、今のところ誰も気付いていない。だからこそ、平和な日々が続く。
「……ディオン」