ユーダリル
機嫌を悪くした相棒に、ウィルは溜息をつくしかなかった。このまま機嫌が悪いと、帰りは素直に乗せてくれるか心配になってしまう。ウィルはディオンが乗せなくとも、帰る方法はいくらでも知っていた。このような時、様々な土地の地理が交通に詳しいと便利だった。
しかしユフィールは、何も知らない。最悪の場合は、目的地で立ち往生。そして、泣いてしまう。
「食事は、一緒に食うよな?」
その言葉の意味を理解した瞬間、ディオンは渋々と頷く。本当のところは、ウィルと二人っきりで食事をしたい。
しかし、其処にユフィールが同席するのは、避けられないこと。そのことは学習して学んでいるので、文句を言うことはしない。逆に文句を言えば、ウィルの機嫌が悪くなってしまう。
少しずつであったが言うことを聞きはじめたディオンに、ホッと胸を撫で下ろす。このままの調子で――と、考えていたウィルであったが、治ったのならそれでいい。しかし、それは甘い考えであった。
何とディオンは表の素振りだけを変えていたが、心の中はどす黒い。ユフィールがウィルから離れた瞬間を狙って、攻撃を仕掛けようと考えていた。それも、頭から噛み付く方法で。
それが実際に実行されるかは今のところ不透明であったが、この先の行動で全てが決まってくる。ウィルにしてみたら、静かに買い物をしたかった。だが、ディオンの策略がそれを阻む。
そして、少し困った買い物がはじまる。
◇◆◇◆◇◆
ウィル達が到着したのは、海辺の街アークリード。此処は交易の中心都市といわれ、世界中から様々な品々が運び込まれてくる。その為「アークリードで手に入らない物はない」と、言われているほどだ。
それらを買い求める者達によって、道は数多くの人で溢れていた。また港には各国の旗を掲げた船が何十艘(そう)も接岸しており、ユーダリルの中しか知らないユフィールは、この迫力に圧倒され眩暈を覚えていた。
「凄いです」
「この街なら、目的の物が買えるはずだよ。世界中から、多くの品物が集まってくるからね」
「はい。有難うございます」
「それはいいと、何処に降りようかな」