ユーダリル

 上空からアークリードを見落とすウィルは、着地場所を探していた。流石に、何処でもいいというわけにはいかない。街の中心部は店が立ち並び、邪魔になってしまう。それなら港付近というのも考えのひとつにあったが、あそこは荷物が山積みされているので、これまた邪魔になる。

 こうなると、人気がない場所ということになってしまう。しかし、ディオンが嫌がるだろう。

 だからといって、人が多い場所に着陸するわけにはいかない。こう見えて、ディオンはかなり大きい。

「半日、待てるよな」

 だが、返された言葉は「待てない」という内容であった。普段のディオンであったら、何ら苦にならない時間。しかし今回は、ユフィールが一緒。長い時間共にいることを懸念し、何か悪いことが起こらないかと心配する。だがこの場合、ディオンが一緒の方が危険であった。

 こうなると、方法がない。いや、ひとつだけあった。それは、ウィルがディオンと一緒に待てばいい。そしてユフィール一人が買い物に行けばいいが、アークリードははじめての土地。

 上空から見下ろしてわかるように、この街はとても広い。ユーダリルで一番大きい街の倍以上はあるだろう。下手すれば、迷子になってしまう。そうなってしまえば、捜すのが大変だ。

 ウィルは、深い溜息をついてしまう。やはりこの場合、ユフィールと一緒に行くべきだろう。だが、ディオンは我儘を突き通す。この二者の板ばさみは、ウィルにとっては苦しい。

「あの……ウィル様」

「何?」

「私は、一人で大丈夫です」

「いや、それは駄目だね」

 その言葉は、ディオンの行動を批判するものであった。どうやら結論を出したのだろう、ユフィールと一緒に行くということを告げる。まさかそのように言われるとは思ってもみなかったディオンは、大粒の涙を流す。だが泣こうが喚こうが、ウィルにとっては関係ない。

 ディオンの身に何かが起こるというのは、まず考えられない。そもそも、竜に攻撃を仕掛ける人間など珍しい。大人しい性格の飛竜であれ、暴れれば人間など軽く吹き飛ばしてしまう。

 一方、ユフィールは違う。姉のセシリアのように逞しいわけでも、格闘技を使えるわけではない。ましてや、おどおどとしたこの性格。以前、誘拐されそうになった時、何もできないでいた。
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