ユーダリル

 あの時は、相手が多少手加減をしてくれていたが、アークリードで誘拐に巻き込まれたら何をされるかわかったものではない。最悪、傷つけられたら――責任問題に発展してしまう。

 それを回避するには、一緒に行動するのが一番だ。そのように結論付けたウィルは、ユフィールに一緒に行くことを提案した。勿論、ディオンは反対するが、適当に聞き流されてしまう。

「宜しいのですか?」

「何処に、どのような店があるかわからないだろ? それなら、案内だって必要だよ。それに、大きな街は危険がある」

「有難うございます」

 一緒に買い物に行けないと諦めていたユフィールであったが、一緒に行けるとわかった途端、瞳を潤ませる。その時、抗議の声が上がった。しかしウィルの鋭い一撃で、それが止められた。

 何と、頭を殴ったのである。勿論、本気でやったのではない。軽く叩く程度であったが、ディオンにしてみたらこれ以上の仕打ちはない。ウィルからの説教と攻撃。このふたつは心を鋭く抉り、立ち直れないほどの衝撃を与えた。すると何を思ったのか、街外れまで飛んでいく。

「お、おい。どうした」

 だが、ディオンの耳には届いていない。ただフラフラと空中を漂い、人気の少ない場所へと向かう。そして地面に着地すると同時に、堪っていた感情を爆発させた。そう、泣きはじめたのだ。

「何故、泣く」

 ウィルとユフィールは背中から降りると、正面へ行き目を赤くしながら泣くディオンを見詰める。

 アークリードに到着する前は、不機嫌な態度を取っていた。そして今は、このように別の態度を見せる。移り変わりの激しい感情に、ウィルは頭を思いっきり掻くと渋い表情を作った。

 ディオンは、物分りが良い生き物だと思っていた。しかし、現実は思った以上に我儘。何より、暴れるのが困ってしまう。この調子で泣き続けていたら、買い物に来た意味がない。

 こうなると、完璧にディオンのお守りになってしまう。それを見ていたユフィールは大きく頷くと、ひとつの提案をした。

「やはりウィル様は、残って下さい」

「いや、一人は――」

「大丈夫です。それに、ウィル様の買い物もしてきます。お屋敷では、このような仕事もしていますので」
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