ユーダリル
「あれは、大変だよ」
「構いません。多少のことは、慣れていますから。力仕事は、毎日行っております。ですので、大丈夫です」
メイドの仕事で、一般的な女子以上の筋肉を身に付けていた。そのことを胸を張って伝えていくが、ウィルが首を縦に振ることはなかった。あれは、体力以前の問題であり、ウィルが求めようとしているのは、実は剣であった。それも小振りの剣ではなく、それなりに大きい。
あのような物をユフィールに頼めるわけがない。それに武器が置かれている店には、それなりの人物が集まってくる。そのような場所に、ユフィールを向かわせるのは危険すぎる。
そのことを丁寧に説明していくが、ユフィールが頑固に「行く」と、言い続けた。これは少しでも役に立ちたいという女心であるが、時と場合によっては相手に迷惑を掛ける要因となる。
両者の間に挟まれるウィルは、複雑な心境にあった。あちらを優先すれば、此方の機嫌が悪くなる。だからといって逆をやれば、結果は同じ。どう転んでも、両者に有利に働かない。
一番良い解決方法は、ディオンが泣くのを止めばいい。しかし、それは難しい問題であった。
そもそも、ディオンはウィルとユフィールが一緒にいるのが嫌いであった。その根本的理由を理解していない為に、このようにおかしな方向へと突き進む。だからといって、我儘は許されない。
その時、何を思ったのかディオンがユフィールに襲い掛かりそうになった。大きく口を開き、綺麗に並んだ牙が怪しく光る。粘つく唾液は牙と牙の隙間から流れ出し、地面に垂れ落ちた。
頭に噛み付こうとしていたのか、寸前でウィルが止めに入った。もし止めに入らなければ、流血ものだろう。日頃のディオンから想像できない行動に、ウィルは大声で怒鳴りつけた。
「何をしている!」
「だ、大丈夫です」
「今回は、許されないよ」
「ですが、私は無事です」
どのような仕打ちをされようと、ユフィールはディオンを守った。心優しい聖母のような性格であったが、ディオンにはそれが伝わらない。それどころか、恩を仇で返す行為をする。
「いや、許されない。ディオンは、我儘すぎる。昔は、大人しくて聞分けが良かったというのに……」