ユーダリル

 その為「可哀想」という感情が溢れ、一匹にしていいのか迷ってしまう。だが、ウィルは「ほっといていい」と、言う。

 この場合、どちらを選ぶか。やはりユフィールは、ウィルを選択してしまう。それが女心であり、何より嫌われたくないという思いが強かった。後方より、切ない鳴き声が聞こえてくる。

 しかし、ウィルは振り向こうとはしない。かなりご立腹の様子であり、ムスっとした表情を浮かべていた。

 どうやら、久し振りに切れてしまったようだ。こうなると、話し掛けることはできない。ただ、怒りが静まるのを待つのみ。

 だが、それがいつになるかは不明であった。




 特に会話のないまま、二人は細い小道を歩きながら街の中心部へ向かう。すると次の瞬間、急に目の前が開けた。そして視線の中に飛び込んできたのは、ユーダリルでは考えられない人の数であった。

 確かに何も知らないユフィールが、この人込みの中で買い物をするのはとても難しい。下手をすれば行き交う人々の動きに流されてしまい、見知らぬ場所へと連れて行かれてしまう。

 ユフィールは、おっとりとした性格の持ち主。これが屋敷で働いている他のメイド達のように逞しさが備わっているのなら、人の流れなど気にせず堂々と歩くことができるだろう。

 残念なことに、それを行う勇気は備わっていない。よってウィルは手を繋ぎ、目的の店へと連れていかなければならない。無論、ユフィールは断るが、彼女に選択する権利はない。
その時ユフィールは手を離そうとしたが、力強く握られている為に、逃れることはできないでいた。

 ただ、なされるまま。いや、それ以前に思考が止まりそうであった。ウィルは、服に関してのことは詳しくはない。

 それを証明するかのように、ファッションに関しては無頓着。冠婚葬祭のような大切な日には、メイド達が何とかしないといけない。そのようなことが関係している為に、ウィルは無頓着を続ける。

 少しは自分で――

 という言葉が聞こえてきそうだが、それは一切ない。何故なら、メイド達が楽しんでいるからだ。大好きなウィルに、素敵な服を着せたい。母心というのは年齢が高すぎるので、この場合は姉心というべきだろう。メイド達の過保護っぷりは、アルンを凌ぐ勢いがあった。
< 139 / 359 >

この作品をシェア

pagetop