ユーダリル

 しかし、物事は弁えていた。よって、ユフィールの恋愛を妨害しない。この点は、アルンよりわかっていた。

「何故――」

「何故?」

「ここまでしてもらうことは、ありません」

「気になるかな?」

「勿論です」

 ラヴィーダ家は、他の家とは異なっていた。そのひとつが、メイド達の立ち振る舞いだろう。
雇い主に対して、平気な顔で愚痴を言う。そして時として、反論し文句も言う。もし他の家であったら、暇を出されてしまうだろう。無論、この場合は今までの給料は払ってくれない。

 だが、そのような心配はない。アルンの心の広さが関係しているかは不明であったが、メイド達は伸び伸びと働いている。メイドとして働きはじめた当初、ユフィールはそのことに驚いた。

 今は少し慣れてきたが、やはり立場を重んじてしまう。だからこそ、ウィルの態度がわからないでいた。

 しかし、ユフィールは知らない。自分もまた、それに染まってきているということを――

 それはウィルのことを好きになった時点で、疑問を持つことはおかしかった。他の家であったら、雇い主やその兄弟に恋心を抱くのはご法度。ましてや、結ばれることは絶対にない。

 だが、ラヴィーダ家は違う。他とは違う感覚の影響で、ウィルと付き合うことが可能であった。このように、ウィルと買い物に出掛けることができる。無論、アルンは反対していた。

 そのような状況ながらセシリアとメイド達の力で、不可能と思えることが現実として行うことができた。就職先が良かった――思わず、神に感謝をしてしまう。普通、ここまで恵まれることはない。

 メイドの恋物語は、物語の中だけで語られる。暫く前までユフィールは、そのように思っていた。だからこそ物語だけを読み、心の中で楽しむ毎日を送る。だが、現実は大きく変わった。

「好きだから」

「……えっ!」

「そのような感情で動くのって、おかしいものかな。兄貴とか、そういう一面があると思うし」

「そ、そうでしょうか」
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