ユーダリル

「いけないかな?」

「……いえ」

 今の一言で、ユフィールは真っ赤になってしまう。その反応を見たウィルは、キョトンっとしてしまう。どうして、赤面しているのか。彼にしてみれば、正直に物事を言っただけのこと。しかし面と向かって「好き」と言われたら女はこのような反応をするものだが、わかっていない。

「そう、ならいいけど。ああ、そっちに行ったら危ないよ。この街は、ユーダリルとは違うんだから」

 この街は、様々な場所から人が集まってくる。よって必然的に、悪い人が集まってしまう。

 全員がそうではないが、やはりこのような人物が目立ってしまう。物が豊富に集まり暮らしやすい街だと思われるが、意外に暮らしにくい。何より、人情に乏しくなってしまうからだ。

 そのように考えると、ユーダリルは暮らしやすい。交通に関しては不便を感じてしまうが、人々は人情に篤い。それが影響しているのだろう。ユフィールの恋を、大勢が応援してくれる。

「す、すみません」

「ほら、気をつける」

「は、はい」

 言っている側から、ユフィールは通行人にぶつかってしまう。しかし相手は良い人だったらしく、特に文句を言われることはない。ただ厳しい視線を向けられただけで、終わった。

 だが、ユフィールにしてみたら大事である。根が素直な為に、些細な事柄でさえ気にしてしまう。だが、いちいち気にしていたら身が持たない。多少は鈍感でなければ、都会での生活は難しいだろう。

 そのように考えると、ユフィールはユーダリルでの生活が似合っていることになる。日々のんびりとした生活を送っているというのに、事件に巻き込まれたことは一度もないからだ。

 刹那、ウィルが動いた。何を思ったのか横を通り過ぎようとした男の足に、自身の足を絡めた。

 その瞬間、男は無様な姿で倒れてしまう。それも、顔面から地面とご挨拶。それにより顔は土で汚れ、微かであったが鼻血が流れ出ている。まさにそれは、みっともないとしかいえない。

 唐突な行動に、ユフィールは目を丸くしてしまう。無論、それは周囲にいた者達も同じだった。倒された者は、一見普通の人物。何処でもいそうな一般人でもあっただが、ウィルは、的確に彼を狙った。
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