ユーダリル

 一体、何を思って行ったのかわからないユフィールは、オドオドとしながら理由を尋ねる。

「泥棒」

「えっ!」

「ユフィールが狙われた」

「ほ、本当ですか」

「あれ? 気付かなかった」

「は、はい」

 ウィルの言葉にユフィールは、慌てて鞄の中を確かめる。すると言葉の通り、財布がなくなっていた。見事としかいいようがない腕前。だが、それに気付いたウィルも凄いが、同時に恐怖を覚えてしまう。ユーダリルに、泥棒という職業を持った人物が一人もいないからだ。

「財布」

「し、知らない」

「嘘だね」

「そ、そんなことはない」

「そうかな」

 泥棒の横にしゃがみ込むと、目の前に手を差し出す。相手は嘘を突き通していくが、表情は正直であった。それを証明するかのように額に大粒の汗が滲み出し、滝のように流れ出す。

 この場から、逃げ出すことはできない。騒ぎを聞きつけ、多くの人が集まりはじめてきたからだ。

「早く出す」

「知らないものは、知らない」

「強情だね」

 その言葉に、周囲が一斉に同調した。これもまた一斉に頷き、自首するように勧めていく。

 こうなってしまったら、嘘を突き通すことはできない。男は渋々ながら罪を認めると、ポケットからユフィールの財布を取り出すと、ウィルの目の前に差し出す。無論、これで許されるわけはない。

 罪を行った場合、それなりの罰が下される。よって素直に財布を返したところで、罪が免れるわけはない。

 この男は、アークリードを守る警備兵に連れて行かれる。そして、取調べが行われるだろう。どのような刑になるかは、知る由もない。いや、この場合は関係ないだろう。ウィルにしてみれば、財布が戻ってくればいい。無論、ユフィールも同じであった。後は、専門家に任せることにした。
< 142 / 359 >

この作品をシェア

pagetop