ユーダリル

 だが、本当に良い物を手に入れた。ユフィールは箱を抱き締めながら、嬉しそうに微笑む。そして周囲がどのような感想を言ってくれるのか、頭の中で考えてしまう。無論、ウィルの感想も気になる。

(褒めてくれるかしら)

 正直、他の者達の感想は関係なかった。ウィルから「可愛い」や「綺麗」と言ってもらえれば、それで満足してしまう。彼はこういうことには無頓着なので、程々の期待感を持っていた。
だが、最初から諦めるのは間違っている。

 故に、ユフィールは過度に期待してしまう。その時、待ちに待った人物がやって来た。ウィルは遅刻してしまったことに罪悪感を抱いているのだろう、駆け足で近づいてきた。そして、どうして遅刻してしまったのか理由を話していく。

 しかしユフィールは、特に反応を示さない。そもそも、怒る理由にはならないのだ。三十分くらいの遅刻は、彼女の中では想定範囲。性格がおっとりとしているので、長時間待つことができた。それに、もうひとつ理由がある。それは、ウィルに気を使わせたくなかったからだ。

 口煩い人物であったら、真っ先に愚痴をこぼしていた。異論ともストレス発散とも取れる言葉は、相手を不快にしてしまう。しかしユフィールは、そのようなことはしない。性格が良いからだ。

「気に入った服あった?」

「はい。値段が、高かったですが」

「何でも手に入る反面、物価が高いからね。それ、最初に言っておけばよかったかな。忘れていた」

「いえ、手持ちの金額で買えました」

 慌ててそのように言うが、実は悲しい状況に置かれていた。正直、手元には殆んど残されていない。これで次の給料日まで生活しないといけないのだから、ユフィールにとっては厳しい。

 メイドの仕事の他に副職を……と考えないこともなかったが、残念ながらメイド以外の仕事は苦手であった。つまり、何が何でも手持ちの金額で最低限の生活を送らないといけない。

 そのことを思った瞬間、ユフィールは溜息をついていた。そんな切ない姿にウィルは首を傾げると、何かあったのか尋ねる。しかし、頭を振るだけで何も答えようとはしなかった。

「気になる」

「いえ、本当に何も……」

「後で、メイド達に言われてしまう。最近、妙に煩いし。だから、喋ってくれるとありがたいな」
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