ユーダリル

「怖いです」

「大丈夫だよ……多分」

「多分ですか」

「ディオンは、大人しい飛竜だけど……怒ると、怖いからね。それに、力があったりするから」

「襲われます」

「それはないよ。基本、雑食だけどね。人肉を食べるということは、聞いたことはないから」

 恐怖に戦いている時の彼の言葉は、心強い。それにディオンは、ウィルに逆らうことはしない。絶対服従という表現は適切ではないが、互いの間にはそのような関係が存在していた。

 ディオンは、ウィルに嫌われたくなかった。それは、親を取られたくないという子供の心境と同じだろう。しかし時として、それは暴走してしまう。その証拠に、ディオンはメイド達が嫌いであった。その最たる存在はユフィールであり、彼女の存在そのものが邪魔であった。

 感情を有する生き物は、邪魔者に対して酷い仕打ちをすることが多い。飛竜は人間のように、精神面と肉体面の攻撃を行うという器用なことは行えないが、何より物理攻撃が強力だ。

 人肉は食べることはない。ウィルはそのように言っていたが、嫌いと判断した瞬間、何が起こるかわかったものではない。下手をすれば、人肉を食べた飛竜第一号に認定されてしまう。

 恐れと恐怖が、入り混じる。しかしディオンの背中に乗らなければ、帰宅することはできない。

 自身が置かれた現状に、ユフィールは貧血で倒れそうになってしまう。それは、生き地獄に等しかった。


◇◆◇◆◇◆


 ウィルが姿を見せた瞬間、ディオンは激しく暴れだした。しかしそれは、歓迎の意思を表したもの。そして大量の涙を流したのだろう、瞼が腫れていた。それに、白目が充血している。

「ほら、ご飯だ」

 紙袋から取り出されたのは、干し肉。それも、半端ではない量であった。ディオンは竜という名が示すよう、一回の食事の量が半端ではない。人間で換算すれば、三人前を平然と平らげてしまう。だが、普段はその半分で納まっている。要は、作る側が大変であるからだ。
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