ユーダリル
それに常に三人前を用意していたら、破綻してしまう。食費は、思った以上に金が掛かるもの。何より、生き物は食事をしなければ死んでしまうので、最低ラインを保ちつつ食事を用意していた。
この干し肉は大量に購入するということで、値切って購入してきた。まさに、涙ぐましい努力。兄と弟の資金繰りは、天と地の差があった。アルンは「値切り」ということを行ったことはない。彼の場合「即決」という二文字が似合っており、時間を掛けるのが嫌いであった。
一方ウィルは、時間を掛けて交渉を行う。一桁単位の値切りは、当たり前。そうしなければ、金欠で首が回らなくなってしまう。何より、アルンに金を借りに行くのが嫌であった。
そのことを知ってか知らずか……ディオンは大口を開き干し肉を食している。余程気に入ったのか、食べる速度が異様に速い。このペースだと、ものの数分で全てが胃の中に納まってしまうだろう。そして更に食べたいとせがむに違いないが、これ以上の食事は用意していない。
それは、資金面の問題だ。ディオンの食費に、全ての金をつぎ込むわけにはいかない。ウィルの金銭状況は、アルンと一緒ではない。これでアルンが資金提供を定期的に行ってくれるのなら、懐は暖かい。だが、アルンの性格はあのようなものなので、期待する方が間違っている。
一人暮らしの必需品――ウィルの場合は、真っ先に「金」という単語を上げてしまう。それほど、苦労していたのだった。だが、稼いでいないわけではない。全てはアルンの懐に入ってしまい、ウィルの手元に残るのは微々たる金額。その為、毎日のように金に悩んでいた。
ディオンは、全く理解していない。していないからこそ、ウィルに「欲しい」という気持ちを込めた視線を向ける。その表情にウィルは、溜息をついてしまう。この食欲っぷりは、立派といっていい。食欲があるというのは健康の証拠であるが、暴飲暴食は不健康のもと。
「ウィル様、これ以上は……」
「そう、そうなんだよ」
「私の物で、宜しいのでしたら――」
「いや、それはいけない」
「で、ですが……」
「厳しい一面を見せないといけない。ディオンの食費に関しては、全体の出費の大半を占めている」
その言葉には、力が感じられた。それに、妙に説得力が感じられる。余程の思い出なのか、ウィルの顔色が悪い。真っ白か真っ青か……その顔色は、貧血でぶっ倒れる寸前に等しい。