ユーダリル
「別に、普通だよ」
「そうなのですか?」
「ほら、仕事の関係で」
「あっ! はい」
ウィルの職業を思い出したユフィールは、納得したように何度も頷く。ウィルは仕事上、数多くの人間に出会う。それにより必然的に人間観察を覚え、相手の裏側を瞬時に見抜いてしまう。
唯一できないのは、実兄のアルン。その人物の秘書をしているセシリアは、実に偉い。それに人間観察が一番得意なのは、セシリア。彼女の才能は、飛び抜けて高いといっていい。
「お、お姉ちゃんが……」
「セシリアさんは、凄いよ」
「……そう思います」
「だよね」
次の瞬間、二人はクスクスと笑い出す。現にセシリアは、最強と呼ばれている。あのアルンを尻に敷いているのだから、まさに向かうところ敵がいない。それに、実質会社を経営しているのはセシリアだ。
「アルン様は、何故――」
「うん?」
「お似合いですから」
「確かに。兄貴の場合は、セシリアさんがいないと駄目だね。それに、セシリアさん以外は無理」
ウィルは、キッパリと言い切る。無論、その理由をユフィールは知っていた。何だかんだで、あの二人は似合いの関係。まさに、大人の恋愛をしていた。勿論、姉と比べる時点で間違っているのだが、どうしても比べてしまう。それにより、長い溜息を無意識についてしまう。
「ユフィール?」
「な、何でもないです」
「それならいいけど」
「あっ! これはどうでしょうか」
「うん。花柄が、可愛いね。サイズはちょっと大きいけど、夏の季節には大活躍してくれるよ」
現在の状況を隠したいのか、ユフィールは近くの棚に置かれていたマグカップを慌てて手に取る。偶然に何ら目的もなく手に取ったマグカップであったが、意外にも可愛らしい物だった。表面に描かれているのは、小さい向日葵。それが大量に描かれ、実に華やかだった。