ユーダリル

 望んだ結末に、ユフィールはこれ以上の苦痛が我が身に訪れないことを喜んだ。それだけ雑貨屋の付き合いは、地獄に等しい行為の数々が続いていたことになる。ユフィールが他のメイド達と同じ心情を持っていたとしたら、間髪いれず反論していた。無論、あのメイド達の性格を考えると、愚痴が飛んでくるのは間違いない。

 そう、相手が大好きなウィルであったとしても、彼女達はきっちりと自己主張をしていくのだった。

 だが、ユフィールは違う。

 自己主張は、滅多にしない。

 よって、好きに扱われる。

 彼女自身、勇気を出して自己主張――ということは、考えていた。しかし、気力と精神が伴わない。

 その為、何をされても静かにしている。

「お待たせ」

「い、いえ」

「よし! 作戦開始」

「怪我は、しないでしょうか」

「ディオン?」

「はい」

「平気だよ。飛竜の身体は、丈夫にできているからね。これくらいで、皮膚は傷付かないよ」

 そのような説明を聞かれても、ユフィールが納得できるものではない。先程のグルグル攻撃は、相当身体にダメージを与えていた。それをディオンに行うのは、やはり可哀想だった。

 一日三回、ディオンに食事を与えているのはユフィール。現在、相手がウィルではないということで、不機嫌な態度を取り鼻息を荒くする。それに差し出す餌を見て、横を向いたりする。

 主人の恋人への仕打ち――

 まさに、最悪の飛竜だ。

 ユフィールは、めげずに一日三回食事を用意している。健気な彼女の心を理解していないディオンは、仕置きの対象だ。影で、何回も目撃しているウィル。よって、この計画を生み出した。

「ユフィール」

「は、はい」

「ディオンが大人しい方がいいでしょ」

 そのように言われ、素直に返事を返すことはできない。確かに、ディオンが大人しい方がいいというのが本音。しかし性格上、それを口にすることはできない。
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