ユーダリル

 だが、態度がそれを示していた。ウィルは、些細な行動を見逃していない。それにより、口許を緩めていた。

 一見、可愛らしい笑み。

 しかし、内心はどす黒い。

 ユフィールはウィルと長く付き合っているので、ウィルの本心を見抜くことが可能だった。同時にこうなってしまうと、何を言っても無駄と知っている。それにより、否定と反論はしなかった。

 そして、ウィルの自宅へ戻った。


◇◆◇◆◇◆


 ウィルの言葉に、ディオンが寄ってくる。勿論、相手は何も知らない。まさか、壮絶な作戦が開始されるとは――

 後方で、見詰めているユフィール。

 表情は、暗かった。

 ウィルは、購入した縄をディオンの目の前で広げる。一方のディオンは、ウィルの前で可愛らしく座っている。相手は、大好きな人間。それに、自分を育ててくれた父親であり母親。

 その点からして、ディオンは全面的にウィルを信頼している。よって、瞳が輝いていた。瞳の輝き方は「食べ物を貰える」と、勘違いしている。大きい体格でありながら、精神は子供。

 ウィルが呼べばこのように訪れ、何かを貰えるのではないかと待つ。しかし、それが悪かった。

 刹那、ディオンの悲鳴が響く。

 それを見た瞬間、ユフィールは切ない表情を浮かべた。

「こら、暴れるな!」

 ディオンの悲鳴に続き、ウィルの怒鳴り声が響く。懸命に縄でディオンの身体を縛っている為に、顔が徐々に歪んでいっている。普段では見られない形相に、ユフィールは戦いた。

「ウィル様、これ以上は……」

「そう?」

「ディオンが、苦しんでいます」

「えっ!?」

「泡、吹いています」

 ユフィールの指摘に、ウィルはディオンの顔に視線を向ける。すると言葉の通り、ディオンは口許から大量の泡を吹いていた。
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