ユーダリル
出会った当初のユフィールは大人しく、口数が少ない女性だった。しかし今は、頻繁に自己主張をしていっている。ウィルはナイフを取り出すと、ディオンを縛る縄を切っていく。数日の苦痛から開放されたことに、ディオンは大粒の涙を流していた。だがユフィールが持つ食べ物を見た瞬間、瞳が輝いた。
バシバシと尻尾で地面を叩く。
次の瞬間、ユフィールに襲い掛かった。
青空に、女の悲鳴が響く。
ディオンは、ユフィールを襲ったのではない。彼女が持っていた食べ物に、飛び掛ったのだ。
地面に転ぶ、食べ物。
ディオンは、モシャモシャと食べていった。
「ほら、大丈夫」
「ですが、いけません」
「……厳しい」
「それは、ウィル様が――」
そもそもの原因は、ウィルがディオンの日干し計画を実行しなければよかった。だがこのようにしないと、ディオンの我儘な性格が改善していかない。それに、ユフィールに危害が行く。それを思って行った行為。それが正確に伝わっていないことに、ウィルはへこむ。
だが、それを考えている暇はない。
そう、ディオンが暴れたのだ。
「な、何だ」
「多分、足りないのでしょう」
「食べ物?」
「日干しですので」
「仕方ない。ある食べ物を全部、ディオンに食わせてしまおう。で、何か悪いことを言った?」
「仕方ないじゃないです」
ユフィールの言葉は、確実にウィルの精神を傷付けていった。その場に居づらくなったウィルはそそくさと建物の中へ向かうと、ディオンが食べられる物を探していく。そして、両手で抱えてきたのは大量の野菜。キャベツにレタスにカボチャ。それに、トウモロコシにジャガイモだ。
一応、生で食べることができる野菜。カボチャとジャガイモは硬いので人間がそのまま食べたら顎を痛めてしまうが、顎の力が半端ではないディオンには関係ない。カボチャを口の中に入れると、ボリボリと咀嚼していく。そして一気に飲み干すと、次にジャガイモを食す。