ユーダリル

 ウィルは頭を抱え込むと、その場にしゃがみ込んでしまう。そして、唸り声を発していった。一方大量の水を飲み終えたディオンが、二人のもとへやってくる。そして何を思ったのか、ユフィールに懐きはじめた。

 どうやら「食べ物をくれた優しい人間」と心変わりをしたのだろう、完全に服従している。

「ウ、ウィル様」

「結果的に、良かったよ」

「だ、大丈夫でしょうか」

「ディオンは、一度懐いてしまえば平気だよ。これから、攻撃を仕掛けてくることはないから」

「……はい」

 今までの出来事があるので、簡単にウィルの言葉を受け入れることはできない。だが、恐る恐る手を伸ばし鼻先に触れる。すると触れられたことが気持ち良かったのか、甘えた声で鳴く。

「か、可愛いです」

「身体は、大きいけどね」

「あの……乗っても……」

「乗る?」

「平気でしたら」

 ユーダリルを離れ買い物に行った時、今とは違いディオンの機嫌が悪かった。それにより、乗り心地は最悪。尚且つ、生きた心地がしなかった。しかし懐いた今、最高の空の旅が約束された。

「今は、無理」

「い、いえ。今度――」

「お金が……ああ、やっぱり兄貴に……」

 「金」と口にした瞬間、ウィルは再び頭を抱えてしまう。どのように足掻いたところで、アルンに頼らないといけない。仕事をして金を稼ぐのが一番の方法だが、今後の食糧事情を考えると即金が欲しい。そしてツケ払いが恐ろしいが、安心して金を借りられるのはアルンしかいない。

「ウィル様、私が……」

「いや、それはいいよ」

「で、ですが……」

 ユフィールに金を支払うという建前で、働いてもらっている。それだというのに、ユフィール自身に金を借りる時点で泡沫転倒。その為、丁重に断っていく。それに、ユフィールに金を借りる行為自体、かなり気が引ける。またそれを行った場合、アルンのいい笑いものになってしまう。
< 172 / 359 >

この作品をシェア

pagetop