ユーダリル
「何?」
「金欠なんだ」
「以前は、平気と言っていたじゃないか」
「理由があるんだよ」
その言葉に、アルンは訝しげな表情を浮かべた。アルンは、ウィルの性格を熟知している。
そして、大枚を叩いて何かを購入する人物ではないと、理解している。そのウィルが、金を貸して欲しいとは――アルンは、身を乗り出して聞く。悪い道に進んでしまったのかと。
「違うよ」
「じゃあ、何だ」
「……ディオン」
「ディオン?」
「ディオンがユフィールを嫌うから、ちょっと仕置きをしたんだよ。そうしたら、痛いしっぺ返しが……」
小声で語っていくのは、ディオン日干し作戦のこと。まさかそのようなことをやっていると思っていなかったアルンは、深い溜息を付く。そしてウィルが一通り語った後、口を開いた。
「で、食われたと」
「そうなんだ」
「ディオンは、大人しくなったのか?」
「なったよ。ユフィールに、懐いている。多分、これで襲われる心配はないと思うけど……兄貴、どうしたの?」
ユフィールは、ウィルの彼女。いつものアルンであったら、間髪いれずに愚痴が飛んでいるのだが、今日のアルンは愚痴を言わない。
それどころか、ユフィールを心配している。その気持ちの変化に、ウィルは動揺してしまう。このようなアルンは、アルンではない。強い衝撃を受けたのか、それとも奇怪な食べ物を食べてしまったのかと、ウィルは本気で心配する。
「大丈夫だ」
「だ、だって……」
「しつこいぞ」
「別の人物が、兄貴に変装しているんだ」
一歩二歩と後退すると、ウィルはビシっと人差し指を向ける。そして早く正体を見せるように言うが、アルンはそれに従わない。そもそも、アルンは本物。変装を解くように言われても、できないものはできない。だが、ウィルは聞き入れない。それほど、アルンはおかしかった。