ユーダリル
それは、履いているヒールが突き刺さった跡。それをウィルに知られては恥ずかしいのか、誤魔化していく。だが、その必要はなかった。そもそも、セシリアの信頼度は高いので、壁に穴を開けたと説明しなければ、誰も気付きはしない。いや穴の存在に気付いたとしても、アルンに責任がいく。
彼女のプライドがそうさせているのか、誤魔化しを続ける。その間、表情ひとつ変えない。それにより、ウィルは完全に誤魔化されてしまう。そして何ら疑問を持たず、次の会話に進む。
「これで、兄貴が変わったのか」
「はい。仕事を真面目にやっております」
「じゃあ、これも仕事?」
「はい。いい機会ですので、溜まりに溜まった仕事を全て片付けていただくつもりです。皆が、迷惑していますので」
「やっぱり、仕事を溜めていたんだ。で、話が変わるけど……兄貴って、ユフィールとの関係が良くなったの?」
「いえ、そのような……」
「さっき、ユフィールを心配するような内容を言っていたんだよ。あの兄貴が、信じられないよ」
ウィルの言葉に、セシリアは不信感たっぷりの視線をアルンに向ける、一方のアルンはまだ意識が飛んでいるのか、反応を示さない。彼の口から真相を聞きだすのが一番だが、これでは聞き出せない。そう判断したセシリアは、何を思ったのか平手打ちを食らわしていた。
「セシリアさん」
「いいのです」
「は、はい」
セシリアの迫力に負けたウィルは、何も言えなくなってしまう。今下手に反論した場合、同じように平手打ちが飛んでくる。それにセシリアの平手打ちの威力は、半端ではない。その証拠に、アルンの頬には赤い手形がくっきりと残っていた。それに、少し腫れ上がっている。
「な、何をする」
「お聞きしたいことがあります」
「な、何だ」
「ユフィールのことです」
その名前に、アルンは動揺していた。以前のアルンであったら、間髪いれずに異論の言葉を発していくが、今日のアルンは何処か違っていた。ウィルが指摘したように、変化している。その変わり方にセシリアは、追及の手を緩めない。アルンに詰め寄ると、真相を語るように言う。