ユーダリル
無論、二人の世界に入ってしまったウィルとユフィールが、ディオンの反応に気付くわけがない。
そして、ギルドへ向かう。
「あ、貴女は……」
「知っている方ですか?」
「知っているも何も……」
しかし、その後の言葉が続かない。
ウィルは、目の前に立っている人物を知っている。
そう、前ギルドマスターの奥方だ。
何故、前ギルドマスターの奥方が、現在のギルドマスターの地位に就いているのか。ウィルは、首を傾げる。すると相手は、口許に手を当てクスクスと笑う。そう、影にアルンが関係していた。
アルンが前ギルドマスターのクラウスに、圧力を掛けていたのは噂で耳にしていた。しかしまさか、このようなことになっていたとは。ウィルは、苦笑いをするしかできないでいた。
「以前は、夫が……」
「い、いえ」
「これから、皆様に優しくいたします」
「は、はい」
完全に、ウィルは意表を突かれてしまっている。それにより、上手く言葉が出ない。しどろもどろで、完全に相手のペースに飲まれてしまっていた。それだけ、インパクトが強い。
「あの……旦那様は?」
「あの人に“様”なんて、つけなくていいんですよ。かなり、ウィル様に迷惑を掛けているのですから。それを後で聞きまして、懲らしめておきました。ですので、安心して下さい」
「……はい」
一体、どのような仕置きをされたのか――
知りたいようで、恐ろしい。反射的に、ユフィールに視線を向ける。すると、頭を振っていた。
彼女も、真相を聞きたくないようだ。どうやら、本能的に察したのだろう。徐々に、顔色が悪くなっている。それだけ、新ギルドマスターはクラウス以上の存在であった。だが相手は、自身が圧力を掛けていることに気付いていない。その為、クスクスと笑い続けていた。