ユーダリル
ギルドマスターが新しい人物に変更して嬉しいが、前の人物クラウス以上の圧力を掛けてくる。ウィルは、徐々に気分が悪くなる思いがしてきた。何故こうも、周囲に存在感を持つ人物が集まるのか――
頭痛に、悩まされる。
愚痴を言っては失礼なので、懸命に耐えた。
だが、相手はウィルの気持ちを察してはくれない。それにより、仕事の話を勝手にはじめた。
「宜しいでしょうか」
「え、ええ……」
「今回は、楽な仕事ですので」
「わ、わかりました」
完全に押し切られた形で、話が進んでいく。本来であったら、断ってもいい。今アルンから貰った金で、暫く生活を送れるからだ。だが新しいギルドマスター相手に、反論はできなかった。
「嬉しいですわ」
「……はい」
「それでは、宜しくお願いします」
そう言うと勝手に話を終了させ、建物の奥へと行ってしまう。取り残されたウィルは、顔を引き攣らせるしかできない。そしてユフィールは、ギルドマスターの迫力に押され固まっていた。
「ユフィール」
「……ウィル様」
「泣かない」
「で、ですが……」
目許に涙を浮かべているユフィールの頭をポンポンと叩くと、落ち着くように言い聞かせていく。しかし、心の中では複雑だった。前ギルドマスターのクラウスに、奥方がいると聞いていたが、これほどの人物ということは知らなかった。よって、予備知識無しで会った結果、こうなってしまった。
肉体的疲労以外に、精神的疲労も強い。それにウィルは、全身を脂汗でぐっしょりと濡らす。
「あの……奥様なのですか」
「うん? ああ、前マスターの奥方」
新しくギルドマスターの地位に就いた人物は、エリア・ヘストンという名前の女性。名前は可愛らしいが、中身が一致していない。ある意味、アルンと同等に厄介な相手。それにより、ウィルはその場で崩れ落ちてしまう。そして、自身に降り掛かる不幸を呪うしかない。