ユーダリル
言うことは、きっちりと言わないといけない。ウィルはユフィールを見詰めると、強い口調で言った。
「駄目。絶対に、駄目だ」
「ウィル様」
どんなに懇願されても、首を縦に振ることはない。仕事が行われる場所は、ユーダリル内。そして、危険性が高い場所ではない。しかしこれはウィルを基準としているので、ユフィールに当て嵌まるわけがない。それに彼女は素人なので、少しの油断が大怪我に繋がる場合がある。
ユフィールの気持ちは嬉しい。
だからといって、無理なものは無理だった。
「家で待つ」
「で、ですが……」
「そっちの方が、気が休まる」
「そう、仰るのなら……」
渋々ながら、ウィルの言葉を受け入れる。流石に、そのように言われると、反論できない。ユフィールは、ウィルのことが大好き。嫌われたくないという気持ちが前面にあるので、口をつむぐ。
「ユフィールが、嫌いなんじゃないよ。それだけは、わかってほしいな。その……心配なんだ」
「……はい」
勿論、ウィルの気持ちは理解している。しているからこそ、ユフィールの頬が微かに赤く染まった。それを目の前で見たウィルは、ボリボリと頭を掻く。その後、そっと手を差し出した。
「行こう」
「はい」
差し出された手を取ると、ユフィールは嬉しそうに微笑む。完全に、恋する乙女と化したユフィールは、幸せそうだった。何より今、二人の恋を邪魔する人物がいないのが、大きかった。そして仲良く並んで、買い物へ向かう。その間、強く握り締められた手は、離れることはなかった。
◇◆◇◆◇◆
二人が仲良くやっている時、アルンは書類と格闘していた。書いても書いても無くならない、書類の山。それだけ、仕事を溜めていた証拠であった。長い時間文字を書き続けているので、手首が痛い。それに腱鞘炎に悩まされていたので、思うように手が動かなかった。