ユーダリル

 幼少の頃から、ウィルはアルンの側に寄りたがらない。やはり実兄を苦手としているのか、見事に表情に表れている。この時の出来事を思い出したのか、アルンは写真に視線を向け思い出に浸る。日頃、口煩く言っているアルンだが、本音の部分ではウィルを心配していた。

 幸せになってほしい。

 これを第一に、考えている。

 しかし、照れ臭い。

 よって、愛情の裏返しになってしまう。

 お陰で、仲が悪い。

 だが、少しずつ仲は改善していっている。現に、ウィルがアルンのもとに金を借りに来た。本当に毛嫌いしているというのなら、金も借りに来ない。それを思うと、アルンは怪しく微笑む。

 ふと「結婚」という二文字が、脳裏に過ぎる。

 その瞬間、溜息を付く。

 彼にとって、弟は可愛い。勿論、幸せになってほしい。その中に結婚という言葉が含まれるものだが、いまいち踏ん切りが付かない。個人的に、ウィルとユフィールは今の関係で突き通して欲しいと思っているが、無論それが無理だというのもわかっているが、束縛感が先立つ。

 ウィルは、自身が育てた。

 自身が、教育した。

 親心が強いので、過度に気になる。

「結婚……結婚……」

 ブツブツと、同じ単語を繰り返す。

 その時、運悪く部屋の扉が開き、セシリアが入室してきた。勿論、アルンの呟きは耳に届いていた。

「……アルン様」

「な、なんでもない」

「確か、結婚と――」

「ウィルの結婚だ」

「お認めに、なさるのですね」

「違う!」

「そう、ムキになさらないで下さい」

 何をそんなにムキになっているのか。セシリアは、薬箱を持ちつつ苦笑いを浮かべていた。これはアルンの特徴と理解はしているが、時折疲れてしまう。現に今、写真立てを眺めつつ、何度も「結婚」と、呟いていた。これを怪しいといわずして、何を怪しいというのか。
< 188 / 359 >

この作品をシェア

pagetop