ユーダリル
セシリアはゆっくりとした歩調でアルンの側へ行くと、ドスンっと薬箱を机の上に置いた。
そして、本音を言う。
「愛し合っている同士ですので、ご結婚を認めればいいと思います。それに、好いていない同士の結婚は、不幸を招きます」
「……そうだな」
「それに、周囲の者達もそれを望んでいます。あれほど仲がいい二人は、いないと言っています」
流石にそのように言われると、アルンは何も言えなくなってしまう。無意識に机の上に置いてあった写真立てを鷲掴みにすると、何事もなかったかのようにそれを引き出しの中に仕舞う。
「考えておく」
「わかりました」
「この話は、暫く無しだ」
「では、最後に一言――」
「何だ」
「二人にも、結婚できる年齢です」
勿論、アルンの身体が過敏に反応を示したのはいうまでもない。どうやら「結婚」という単語に過敏に反応する身体へと、変化してしまったらしい。それはそれで、実に面白い。セシリアが悪戯好きであったら、何度もこの単語を連呼しているのだが、流石にそれは行わない。
ただ、そうであることを伝える。
その後、薬箱を開いた。
「ご自分で、手当てを」
「やってくれないのか」
「私は、忙しいです」
「冷たいな」
「そのようなことはありません。これも、アルン様の仕事が深く関係していることですので」
所々に、毒が混じる言葉。
流石、最強の秘書。容赦しない。
アルンが渋々手当てをしている横で、セシリアは黙々と自身の仕事を開始していく。
アルンが少しずつ真面目に仕事をしはじめてきているので、彼女が持っている手帳に書かれている予定が増えていっている。そのことに対し、セシリアは正直に嬉しいと思う。だが反面、全てをこなせるのか迷いが生じる。何せ、今まで不真面目で突き通してきたアルンが行うのだから。