ユーダリル

 潰れた場合、多くの社員に迷惑が行く。アルン一人が惨めな目に遭えばいいのだが、いかんせん周囲を巻き込んでしまう。そうなると、この方法はかなり危険。それに、セシリアのイメージも悪くなる。

 また、路頭に迷うのは社員だけではない。この屋敷で働いている者達も、そうなってしまう。

 ウィルは、何とか一人で生活できる。

 なら、ユフィールは――

 可愛い妹を思った瞬間、この考えを封じる。

「セシリア?」

「は、はい」

「どうした」

「い、いえ……」

「それならいいが」

 部下達の気持ちを把握できない人物だが、セシリアの態度は瞬時に把握できる。それを大事な部分で発揮してほしいスキルだが、相手はアルン。過度に期待すると、馬鹿を見てしまう。

 どうして、こうなってしまったのか。

 出会った時から、アルンはこのようなもの。

 そうなると、両親の教育が悪かったのか。

 いや、ウィルは普通だ。

 だとしたら――

 アルンが、特殊の存在なのだ。

 何という人物に出会ったのか。何という人物の秘書になってしまったのか。悩みは尽きない。

 しかし、なってしまったのだから仕方ない。セシリアは自分自身に気合を入れると、アルンの教育を進めていくことにした。それが、会社を今以上発展させる最善の方法でもあった。

「終わりましたか」

「あ、ああ」

「では、片付けてきます。アルン様は、仕事を行っていてください。サインくらいは、可能ですので」

「いちいち、指摘しなくていい」

 その言葉に、セシリアが過敏に反応を示す。アルンは、しつこく言わないと何をやらかすかわかったものではない。つまり、念には念を入れて。だが、セシリアは愚痴を言うことはない。指摘はするが、加減はする。それは、グチグチと長く言っても効果が見られなくなっていたからだ。
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