ユーダリル

 客が来ないことをいいことに、ウィルの語気が強くなっていく。当初優勢に立っていた店主だが、徐々に迫力に負けてしまう。現在店主は沈黙を続け、ウィルの言葉を全身で受けていた。

 流石に、これではいけない。

 ユフィールは大きく頷くと、意を決し声を掛けた。

「ウィル様!」

「何?」

「そろそろ、帰りませんと……」

「ユフィールが言うのなら、帰るけど――」

「お願いします」

 好意を示している人物の言葉は強かった。ウィルは渋々ながら受け入れ、店主を許すことにした。本心では憎らしい。しかし、ユフィールの顔を立てないといけない。ジレンマに陥るが、後者を取る。

「じゃあ、行く」

「わ、わかりました」

「ゲーリーを頼む」

「は、はい」

 額に大量の汗を浮かべつつ、命令を聞く。

 更に礼儀正しい態度を取り、二人を見送る。

 そして扉が閉まった瞬間、深い溜息をついた。




「決闘は、どうなったのでしょうか」

「やるよ」

「戦うのですか!」

 家に帰る途中、ユフィールはゲーリーとどのような会話をしていたのか尋ねる。彼女の頭の中には「決闘」という単語が回り、悪い方向へ思考が行く。その為、真意を聞き出したい。

 ユフィールは、血を流す決闘を行ってほしくはなかった。勿論一番いいのは、決闘を行わないこと。

 しかし現在の状況を考えると、それは無理に近い。

 だからこそ、質問を繰り返す。

 暫く会話を続けていくと、決闘の内容が判明する。ゲーリーがウィルに提案した決闘の内容――それは、仕事の決闘であった。どちらが先に、指定した宝を持ってこられるか。それを行いたいという。特に、危険な場所へ行くわけではない。それを聞いたユフィールは、胸を撫で下ろした。
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