ユーダリル

「大金を稼いでいるのだし、少しは弟に回してほしいな。本当に兄貴は、金に対しての執着心が高いよ。溜めこんでいたところで、いいことはないし。たまには、吐き出してほしいよ」

 そう嘆いたところで、物事が良い方向へ運ぶことはない。

 商売の才能を持つのは、間違いなくアルン。

 そしてウィルは、外で活躍するのが大好き。

 または、古代文献を読み漁るタイプ。

 そもそも商売には興味がなく、椅子に腰掛け長時間仕事をすることは苦手であった。

 しかし、周囲からは“似たもの兄弟”と、言われている。

 それは「物事に集中すると、周囲が見えなくなってしまう」という部分が関係しており、その辺りが“似たモノ兄弟”と、言われる所以であった。

 だが、本人達は気付いていない。これもまた、似たモノということだ。

「はい。注文のチーズの詰め合わせだよ」

「すみません。本当に――」

 その時、恰幅の良い女性がチーズが詰まった箱を手渡してきた。

 この牧場で作られているチーズは市場では大人気で、なかなか手に入らないことで有名な一品。

 それにヨーグルトは子供や女性の間で好まれており、両方を手に入れるのは至難の業とも言われているほどだ。

「此方こそ、アルン様には感謝をしているよ。あの方が広めてくれたお陰で、多くの場所と取引できるようになったのだから。有難いと思っているよ。足を向けて、寝ることができないね」

「確かに、そうかもしれません」

「それと、これを持っていきな」

「いいのですか?」

「勿論」

 ウィルに手渡されたのは、ひとつの紙袋。

 中身はアルンが注文したチーズと同じ物であったが、何でも形が崩れてしまい出荷できる品物ではないらしい。

 だが、見た目が悪いだけで、味は折り紙つき。

 このような物を貰ったとわかったら、兄に後で没収されてしまうだろう。

 食い意地に感じては人並み以上で、下手に敵に回すと厄介。

 ウィルは身を持って知っているので、受け取るのを躊躇ってしまう。

「アルン様は、大好物だからね。毎回、食べさせもらっていないでしょ。だから、お土産よ」

 確かにアルンはこの牧場のチーズは大好物で、絶対に食べさせてもらえない。

 全てのチーズを一人で食べてしまい、分け与えることはしない。

 少しくらい分け与えてもいいだろうが、あれは生来のケチ。

 どのように説得したところで、性格が改善される見込みなどない。
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