ユーダリル
以前、アルンの命令で行った「アドレー洞窟」より危険すぎる。聞いたウィルは、表情を歪めた。
吸血蝙蝠の大量襲撃。
今もって、トラウマとなっている。
しかし今回は、ゲーリー相手に行かないといけない。ウィルは口許を緩めると、提案を受け入れた。
「決まり?」
「そうなります」
「なら、これにサインして」
エリアが差し出したのは、一枚の紙。「決闘証明書」と書かれたそれは、公式の書類であった。決闘を行う二人がサインをし、仲介役の名前を書く。そして、これを上に提出して受理される。
エリアの説明に二人は、それぞれ名前を書き込んでく。急いで書いた文字なので、読むに読めない。
だが、名前が書かれていることには間違いない。毟り取るように紙を奪うと、今度はエリアが名前を書く。
「後で、提出するわ」
「宜しくお願いします」
「じゃあ、気を付けて。できれば、私に迷惑を掛けないようにしてね。ウィル君は、わかるでしょ?」
「わかっています」
「お前、いまだに兄貴に……」
しかし、これ以上の言葉が続けられることはなかった。何と、ウィルがゲーリーの足を踏んだのだ。
今、アルンの名前を出すのは死に等しい。前もって了承を得ているが、感情が爆発した場合、何を仕出かすかわかったものではない。アルンの恐怖を知らないゲーリーは、好き勝手に物事を言う。
結果、足を踏まれた。
「殴るよ」
「その前に、足を――」
全体重を掛けて踏まれた結果、足の骨が折れる寸前までいく。ゲーリーは声にならない悲鳴を上げると、蹲る。その時、エリアの低音の声音が響く。彼女にしてみれば、決闘は外でやってほしかった。
何より建物の中で行ったら、埃が舞って困るという。本来であったら喧嘩の仲裁に入るのが普通だが、それを行おうともしない。これこそ、以前のギルドマスタートラビスとの大きな違いであった。