ユーダリル

 無意識のうちに、距離を取る。しかし、彼は知らない。上には上がいることを――

 それは、ユフィールだった。

 彼女は、食べ物でディオンを服従させた。

 だが、ゲーリーが気付くわけがない。ユフィールは、おっとりとした女の子。それに今、ウィルの方にライバル意識を抱いている。だからこそ、ユフィールの存在はどうでもよかった。

「先に行く」

「わかった。あちらで……」

「待っていなくていい」

 言葉を遮るように、ゲーリーが叫ぶ。

 対抗意識は高い。

 何が何でも勝つ。

 彼の内にそれしか存在せず、鼻息が荒い。

 ゲーリーの殺気に等しいオーラにウィルは何も言わず、生暖かい視線を向けつつ見送った。

「じゃあ、行く」

「はい。お気をつけて」

 ユフィールに一言言うと、ディオンの背中に乗る。そして目的の場所を告げると、ディオンは両翼を広げ空中に舞い上がる。ゲーリーは、徒歩。ウィルは、ディオンの背中に乗る。

 この時点で、差が付いていた。




「さて、どうしようか」

 目的地に到着したウィルは、入り口の前で立ち尽くしている。凶暴な生き物が住み着いている場所。意気揚々と踏み込んでいっても、怪我が落ち。やはり、万全の態勢で行くのが一番だ。ウィルは、持ってきた荷物の中身を確かめていく。決闘ということで、最低限の準備はしてきた。

 ランプの他に、武器も必要だろう。

 また、道具も欠かせない。

 そしてディオンは、外でお留守番。

 ウィルは、頭の中で計画を練っていく。

 ディオン自身ウィルと一緒に行きたい素振りを見せるが、この場所は危険地帯。自分の身を守るのが精一杯で、ディオンの方まで構ってやる余裕がないからだ。なんだかんだで、本気で戦った経験を持っていない。体型は大きいが一対一で戦った場合、確実に負けてしまう。
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