ユーダリル

 親指と人差し指で、手の甲を摘み上げる。徐々に力を加え、ゲーリーに苦痛を与えていった。ウィルは、悪魔ではない。最初から「待ってほしい」と言えば、このようなことはしない。しかしゲーリーはきっぱりと断ったので、これ以上付き合っている理由はなかった。

「ま、待って」

「嫌だ」

「一応、決闘だし」

「決闘だから、蹴り落とす」

 人の親切心を振り払った奴に、再び親切心を与えることはない。ウィルは最後の攻撃とばかりに摘まんでいる指に力を入れると、思いっきり引ッ張った。

 瞬間、ゲーリーの悲鳴が轟く。

「酷いね」

「決闘を仕掛けたのはお前。だから、徹底的に潰すだけだよ。だから、僕が先に行くからね」

 ヒラヒラと手を振ると、荷物を担ぎ直す。もう、ゲーリーは眼中にない。その証拠に、いくら叫んでも振り向くことはなかった。

 次の瞬間、ゲーリーは思いっきり悪口を言う。

 だが、それが悪かった。

 彼の側に、ディオンがいたからだ。

 賢いディオンは、大体の人間の言葉を理解する。

 勿論、悪口もバッチリと理解していた。

 ガブ。

 ディオンが、ゲーリーの頭を噛む。

 ウィルを貶した罪は大きい。本気で噛んだら頭を噛み潰してしまうと理解しているので、一応は手加減している。しかし、それは甘噛みの領域ではない。ゲーリーの顔が、徐々に赤く染まっていく。

 当初、痛覚が感じない。

 だが暫くした後、激痛に襲われる。

 響くゲーリーの悲鳴。だが、ディオンが開放することはない。それだけ、憎らしかったのだ。

 数分後――

 開放されたゲーリーが、地面に倒れる。

 血塗れの唾液塗れ。ベトベト状態のゲーリーは、完全放心状態だった。長い距離を走った後、ウィルに手の甲を摘まれる。その後、ディオンに顔を噛まれる。何故、こんな目に遭わないといけないのか――そもそもの原因は、自分が決闘を挑んだこと。

 この時、激しく後悔した。
< 209 / 359 >

この作品をシェア

pagetop