ユーダリル
飛竜であったとしても、ディオンは幼竜。
どうやら光っている窓と雲の隙間から差し込む光を間違えてしまったらしく、見事に窓を突き破ってしまった。
幸い、部屋には誰もいなかったので怪我人はいない。
それにより、アルンからは「ディオンを躾けろ!」と、厳しい命令が下った。
だが今回、このような失態をしてしまった。無論、許されるわけがないが、ウィルは許しを請う。
「兄貴、今回は見逃してほしいな」
「別に、怒ってはいない。問題は、ヘルマーじいさんだ」
「……やっぱり」
ヘルマーこの悲惨な状況を見たら、何と言うだろう。
相手が雇い主やその弟であったとしても、あの老人が手心を加えることはない。
どのような罰が待っているのか、考えただけで恐ろしい。
後片付けは絶対にやらされ、その後は……想像しただけで、身体が震えてしまう。
「ウィル様、お帰りなさいませ」
二人の会話に割って入ってきたのは、セシリアだった。アルンの横まで歩み出ると、優雅に一礼を見せる。
「何とか、帰ってきたよ」
「お怪我は、大丈夫ですか?」
「大丈夫、かすり傷だよ。それより、風呂に入りたい」
「お風呂ですか?」
「ディオンに顔中を舐められて、ベトベトになってしまったから。それと、泥も落としたい」
言葉で示されたように、服はドロで汚れ髪はボサボサに乱れていた。
それにディオンに舐められたせいで、首から上がべた付いて気持ちが悪い。
それに、微かにチーズの香りがする。
「わかりました。ユフィール、急いで、お風呂の用意をしなさい。それと、傷の手当ての準備も」
「は、はい!」
大人しく後方で控えていたユフィールはセシリアから命令を受け取ると、急いで屋敷に戻ると風呂の準備をはじめた。
メイド見習いに等しいユフィールであったが、先輩達の厳しい指導により立派に仕事をこなしていた。
それだけを見れば、他の屋敷の見習いより仕事ができる。
だが、一番の理由として上げられるのは「ウィルの為に頑張る」というのが、正しい見方であった。
立場上の問題は存在したが、何事も目標を持って行うのは素晴らしいことだ。
そしてそのことで周囲は何も言わないので、ユフィールにしてみたら働きやすい環境であった。