ユーダリル

 また、長時間静寂の中で佇んでいた影響で、耳が痛い。

 しかし、相手の出方を待つ。

 五分。

 十分。

 いや、もっと経過しているか。

 嫌な汗が、首筋を伝う。

 刹那、黒い影が動く。反射的にウィルは鞘から剣を抜くと、黒い影の方向に切っ先を向け構える。

 戦いがはじまる。

 その緊張感が身体を襲い、微かに震える。

 だがそれ以上に、違う意味で身体が震えた。

「ゲーリー!」

 予想外の人物の登場に、ウィルは大声で叫ぶ。同時に、舌打ちをしていた。獣が発している殺気が、変化したからだ。当初、殺気はウィルに向けられていた。しかし今は、ゲーリーに矛先を向けている。

 どうやら楽に仕留められる相手と判断したのか、唸り声を上げて獣がゲーリーに飛び掛ってきた。

「うお!」

「退け」

 ウィルはゲーリーの背中を蹴り飛ばすと、獣に向かって剣を振る。だが、手応えはなかった。

 そのことに、再び舌打ちをする。

「ゲーリー手伝え」

「えー、無理」

「お前は、一流になりたいって言っていただろう。だったら、戦え! 戦えないわけではないだろう」

「お、おう」

 そのように言われたら、立ち向かうしかない。それに全てウィルにやってもらったら、プライドが許さなかった。

 それは、決闘以前の問題。

 ゲーリーは立ち上がると、剣を抜いた。

 そして二人で獣に立ち向かおうとしたが、相手が襲ってこない。それどころか、一定の足取りで洞窟の奥へ歩いて行く。襲うのを諦めたとも取れる行動に、ウィルは首を傾げてしまう。

 あまりにも、潔い引き方であったからだ。一方のゲーリーは特に疑問も持たず、喜んでいた。
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