ユーダリル
「緊張感がない」
「だって、助かったんだよ」
「そうだけど……全く、決闘という気にならないな。どうする、一緒に行く? それとも、この場所で……」
ウィルはゲーリーを見下すと、ボキボキと指を鳴らす。瞬時に、身の危険を察する。ウィルの目付きは本気。それに、あのアルンの弟。ゲーリーはか細い悲鳴を上げると、全速力で洞窟の奥に走っていた。
「あ、あいつ」
ゲーリーの態度に、本当にトレジャーハンターなのか怪しかった。普段は気が強いと演じているが、本心はこのようなもの。今まで強運のもとで、仕事を行っていたのか。溜息が、何度も出る。
刹那、悲鳴が響く。
勿論、悲鳴の主はゲーリー。
しかし、身体が動かない。本来であったら真っ先に相手のもとへ駆け付けるが、その気になれない。
相手は、ゲーリー。
それが、ウィルを止めていた。
その時、再びゲーリーの悲鳴が響く。
流石に二回も悲鳴を聞くと、そのままにしておくわけにはいかない。ウィルはやれやれと肩を竦めると、剣を鞘に収める。そして、ゲーリーが消えていった奥へ足を進めて行った。
「何をした」
「た、助けて」
声が響く方向に、明かりを向ける。その瞬間、ウィルは言葉を失う。何と、ゲーリーが先程の獣に服を噛まれ引っ張れていた。獣の正体は狼。それも、かなりのサイズの狼だった。
「食われる」
「全くお前は……」
本当は助けたくはないが、後で恨まれたら堪ったものではない。それに亡くなったら、化けて出てきそうだ。
なんだかんだで、ゲーリーの性格はしつこくて鬱陶しい。ウィルは瞬時に剣を抜くと、狼に斬りかかろうとした。しかし、寸前で止まった。ゲーリーの悲鳴に混じるように、か細い鳴き声が耳に届いたからだ。声の位置は――其方に視線と明かりを向けると、鳴き声の正体を知った。
そう、三匹の狼の子供がいたのだ。それにより狼が怒っている理由を知り、斬り付けてはいけないと思う。