ユーダリル
ウィルは溜息を付きつつ、ゲーリーという人物の特徴について考えていく。彼は悪人ではないが、性格面で周囲に多大なる迷惑を掛ける。何でも一番でないと気が済まないらしく、今回の決闘もそれが関係していた。
要は、ユーダリルのトレジャーハンターの歴史に名前を残したいのだ。それを阻んでいるのはウィル。だからこそ、決闘の中で徹底的に痛め付け、その地位を確実なものにしたかった。
それはそれで立派な考えだが、他の者に迷惑を掛けてはいけない。特に、被害を被るのはウィル。それにギルドマスターは許してくれたが、内心はどう思っているか不明な点が多い。
考えれば考えるほど、溜息が出る。
そして、頭が痛い。
しかし、怒りが込み上げることはない。可愛らしい狼に囲まれると、気持ちが和むからだ。
だが、長く寛いでいられない。
この場所は、彼等の住処なのだから。
「出発だ」
「ま、待って」
「早く起きろ」
「お前って、兄貴と……」
「言うな」
ウィルは、アルンと一緒にしてほしくなかった。一応尊敬はしているが、全部ではないからだ。
その為、全力で否定する。
「本当に、いちいち癪に障ることを言うよな。もういい、お前を置いて先に帰ってやるから」
「いや、俺も――」
「食われてしまえ」
それが、ウィルの本音だった。
当初一緒に洞窟から出ていいと考えていたが「兄貴」という言葉で、完全に明後日の方向に飛ぶ。
顔を引き攣らせつつウィルは荷物を持ち直すと、別れの挨拶と共に洞窟の出入り口に歩いて行く。
その後を慌てて追い駆けるゲーリーであったが、大切な荷物を忘れてしまう。慌ててもとの場所へ戻り荷物を手にするが、その時狼達の殺気を感じる。どうやらウィルが行ってしまったことで、本来の姿を取り戻したようだ。それを見たゲーリーはか細い悲鳴を上げると、全速力で洞窟を走った。