ユーダリル
大きい口を開け、ダラダラと涎を垂らしている。ディオンも菓子を食べたいのか、ブルブルと尻尾を振る。
「やっていいか?」
「いいよ。食いたそうだし」
「じゃあ、数個」
自分とゲーリー。それに、洞窟の中の狼親子。それらに菓子を配らないといけないので、ディオンに大量に菓子を与えるわけにはいかない。しかしそれに気付いていないディオンは、多く欲しいとせがむ。
だが、それが受け入れられることはない。ウィルは、開かれた口の中に数枚の菓子を投げ入れると「終わり」と言う。それを聞いたディオンは哀しそうな表情を浮かべると、シクシクと泣き出す。
「お、おい」
「いいんだよ」
「厳しいな」
「ディオンの胃袋は、底無しだよ。大量に食べ物を与えると、癖になってしまうからこれでいい」
「覚えておくよ」
ゲーリーも受け入れてくれたことに、ウィルはうんうんと頷く。彼はディオンの体調を心配し、食事制限をしている。それを周囲が守らず大量に食事を与えたら、ブクブクと太ってしまう。
しかし、その心配をなくなった。そのことに気分を良くしたのか、ゲーリーに沢山の菓子を渡す。
「いいのか?」
「友好の証」
「嬉しいね」
「ディオンには注意だ」
「わかっているよ」
ディオンに取られてはいけないと、隠すようにして食べる。だが、甘い匂いが漂う。その為、ディオンが動く。口を開けゲーリーごと食べようとしたが、寸前でウィルに止められた。
「ディオン!」
「油断できないな」
鋭い牙を見た瞬間、反射的に身構える。この歯で噛まれたら、堪ったものではない。牙は柔らかい肉に突き刺さり、血が噴出する。最悪の場合、出血死は免れない。それだけディオンの牙は、危険であった。現在飼い主のウィルが側にいるので安全だが、もしもの場合もある。