ユーダリル
「俺、洞窟の中に入る」
「餌付けか?」
「おう! 頑張ってくる」
「健闘を祈る」
今のところ、狼親子はゲーリーに懐いていない。今回の努力で何処まで歩み寄れるか不明だが、努力が通じればいい。それに狼は頭がいいので、ゲーリーを殺すことはしないだろう。
ゲーリーの背中に向かって手を振ると、次にディオンに視線を向ける。その目付きは、鋭かった。
「そんなに食うな」
ディオンの顔を両手で挟むと、ブルブルと上下に振る。突然の出来事に、間延びした声音で鳴く。
しかし飼い主が怒っていることに気付いたのか、途中から切なく哀しい鳴き声に変化する。
「ユフィールに言うぞ」
流石に、この言葉は強烈だった。現在、食事を作ってくれているのはユフィール。彼女が食事を作らなくなったら、日干し状態になってしまう。食欲中心で物事を考えているディオンが謝るのは、時間の問題だった。
ウィルの説教が相当利いたのか、地面に横たわりシクシクと泣いている。一方ウィルはディオンに寄り添うようにして、ゲーリーの帰りを待つ。相手のいい関係を築いているのか、静寂が続く。
しかし、それを破るように悲鳴が響く。やはり予想通り、ゲーリーは嫌われていたようだ。
その悲鳴にやれやれと肩を竦めると、ウィルは洞窟の中に入っていく。そして、交流に手を貸すことにした。