ユーダリル


 これから、拷問に等しい状況が繰り広げられる。

 蛇の生殺し……いや、アルンであったら皮を剥ぎ取るだろう。

 外見は優男のような雰囲気が漂うが、行うことは残酷。命の保障はない。

 それを考えただけで、全身から嫌な汗が流れ落ちてしまう。

 思わずウィルは、大声を発してしまう。それは、魂の叫びであった。




「話の本題に入る前に、ひとつ聞いていいか?」

「な、何でしょうか」

「何故、お前の身体からチーズの香りがした」

 やはりアルンは、チーズの香りに気付いていた。

 それは、質問してほしくはない最大級の内容。

 ウィルは視線を横に向け何も答えないように構えたが、相手が悪い。

 どのように防御をしようが、アルンは致命的な一撃を与える。

 お陰で、ウィルは素直に答えるしかなかった。

「えーっと、あれは……」

「あれは?」

「あれは……」

 入浴と着替えを済ませたウィルは、呼び出しに応じる形でアルンの部屋に向かった。

 どのようなことを言われるのだと覚悟していたが、やはり蛇の生殺しの針の筵。

 せっかく風呂に入ったというのに、全身が汗で濡れてしまう。

 こうなると、二回目の風呂タイムになってしまう。

「土産ってことで、貰ったんだよ。兄貴が注文したのとは、別の品物だから。だから、誤解だよ」

 嘘を言ったところで、簡単に見抜かれてしまう。

 仕方がなかったので、ウィルは正直に答えた。

 やはりアルンには、頭が上がらない。

 あまりの情けなさに、涙がこぼれそうになってしまう。

「そうか」

「そういうことです」

「では、帰っていい」

「えっ! それだけ?」

「他に、何があるというのだ。傷の手当ては、シッカリとやっておけよ。セシリアが煩くていけない」

 その内容に、ウィルは信じられないという表情を作っていた。

 アルンは、チーズのことを聞きたくて呼び出しをしたというのか。

 だとしたら、実兄ながらその行動が読めない。

 ウィルは肩を落とし部屋から出て行こうとした瞬間、アルンの言葉がウィルの動きを止める。
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