ユーダリル

 普段の彼女であったら、冷静に言葉を続けていく。だが、今日はそのようなことは行なわない。彼女は長い溜息をついた後、無表情で「行きます」と言うと、深々と頭を垂れていた。

「ま、待て」

「失礼します」

 アルンの必死の言葉は、セシリアに通じることはなかった。彼女は何事もなかったように部屋から出て行くと、廊下で待っていたウィルに目配せする。そして、トレジャーハンターのギルドへ向かった。

 今度は目配せを受け取ったウィルが、アルンの相手をする。勿論、八つ当たりは免れないが、セシリアの将来を考えると文句を言っていられない。その為、意を決し部屋の中に入っていった。

「兄貴」

「……何だ」

「元気がないよ」

「煩い!」

 予想通り、アルンの怒鳴り声が響く。相当頭にきているのか、顔が真っ赤に染まっていた。

 そして八つ当たりするかのようにベシベシと仕事机を叩き、ストレスを外部に放出していく。

「喧嘩したんだ」

「な、何故……」

「やっぱり」

「お前に、関係ない」

「関係ないとは、思わないよ。だって、セシリアさんに相談されたし。手続きもしたからね」

「そうだ!」

 今の言葉で大事な内容を思い出したのだろう、部屋の中に絶叫が長々と響き渡った。同時に大股で弟に近付いていくと、両手で胸倉を掴み上げる。そして、ブルブルと身体を振った。

「い、痛い」

「お前が悪い」

「だから、セシリアさんが……」

「彼女がどうした」

 意味深い言葉に、ブルブルと振る手を止める。流石、セシリアに絶大な信頼を置き、好意を抱いているだけあって、ウィルに真相を聞き出そうと試みる。しかし、今回のウィルも一枚上手。
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