ユーダリル

「さて、兄貴が来る前に計画のチェックだ」

「わかりました」

「計画では、セシリアさんが仕事をしているのを兄貴が止める。そして、きちんと説明する。簡単に言えば、こういうものだけど……兄貴の性格を考えると、凄く不安だったりする」

「す、すみません」

「セシリアさんが、謝らなくても。全部、兄貴が悪いんだから。本当に、セシリアさんの気持ちを……」

 仕事面もいまいちで、恋愛面も最悪。態度は大きく、周囲に迷惑を掛けている。全くいい部分がないアルン。だが、セシリアはこんなアルンに恋愛感情を抱いているので、何が何でも成功しないといけない。

 本音の部分で、ウィルはアルンに説教したい。しかし金銭面を握られているので、面と向かって言えない。その為、このような計画を練ったのだった。何より、セシリアが背後にいるので有難い。

「兄貴を宜しく」

「わかっております」

「で、本音を言っていい?」

「はい」

「皆は、兄貴とセシリアさんが結婚してくれれば、ユーダリルの平和に繋がると思っているんだ」

 その言葉に、セシリアは絶句してしまう。彼女は、自分がアルンと結婚すれば会社の為になると考えていたが、まさか「ユーダリルの平和」に繋がるまで発展していたとは――正直、驚きだった。

 しかし、言っていることはわからないわけでもない。彼女自身、アルンが周囲に多大なる迷惑を掛けていることを、目撃しているからだ。そして、何人もの人間が人生を破綻させた。

 大半がアルンに喧嘩を売った影響だが、よくよく考えると一族全部に迷惑が行くので可哀想だ。

 それを少しでも防ぐ意味で、セシリアはアルンと結婚しないといけない。見方によっては「生贄」という言葉が似合うが、セシリアはアルンに好意を抱いているので問題はなかった。

「うん? どうした」

 何か不穏な気配を察したのか、ディオンが耳をピクピクと動かしていた。すると気配の主を察したのか、何もなかったかのようにその場に寝転んでしまう。そして暫くした後、アルンが息を切らしてやって来る。その姿に慌ててセシリアは姿を消すと、代わりにウィルが出迎えた。
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