ユーダリル
完全に、胃袋を掴まれてしまっている。それだけ、彼女の料理は魅力的であったのだ。ウィルは、どのような料理を作るのか尋ねるも、ユフィールが話してくれることはなかった。
「お楽しみに」と言い、クスクスと笑う。その意地悪な態度にウィルはムスっとしてしまうが、立場上ユフィールに勝てるものではない。その為、ウィルは渋々ながら諦めていた。
「美味しい料理ですから」
「料理の話を聞くと、腹が減る」
「では、沢山作ります」
「有難う」
このようなやり取りを行なっていると、見方によっては同棲しているカップルか夫婦のようであった。もし側に噂好きのメイド達がいたとしたら、いいように茶化されているだろう。
しかし今、そのメイド達はいない。その為、仲良く和気藹々と会話を続けることができた。
「そうだ。忘れていた。明日、オークション会場に行ってくるよ。ゲーリーと一緒なんだけど」
「何か購入するのですか?」
「いや、違う。ただの見物だよ。ゲーリーが行きたいと言うから、たまにはいいと思ってね」
「では、ゲーリーさんは……」
「ユフィールの予想通り、後で家に来るだろうね。そういうことだから、彼の料理も頼むよ」
「はい」
ウィルの仕事仲間は、ウィルと同等に扱わないといけない。勿論ゲーリーの性格はわかっているが、無碍に扱う人物ではないとわかっているので、腕によりをかけて料理を作ると約束する。
彼女の心優しい性格に、ウィルは何も言えなくなってしまう。流石「全ての人に愛情を――」という聖女のような心の持ち主。頭が下がる思いがし、同時にますます好印象を抱く。
「では、用意を――」
「助かるよ」
明日ゲーリーが来るとわかったら、今日から用意をしないといけない。だが、その前にメイドの仕事も残っているので、其方も片付けないといけなかった。ユフィールはそのことをウィルに言うと、いそいそと部屋から出て行く。どうやら、明日の件が楽しみのようだ。