ユーダリル
そのように言われたら、何も言えなくなってしまう。ゲーリーは真顔で「仲間」と、言った。これが冗談で言っているのなら、突っ込みを入れていただろう。だが、真顔で言われると、そのタイミングを失ってしまう。それに、言ってしまうことに罪悪感を覚えてしまう。
彼に「仲間」と呼ばれ、嫌な気分にはならない。ウィルはポリポリと頬を掻くと、ゲーリーの意見に従った。
庭を通り、建物の裏に行く。途中、庭師らしき人物に出会うが、ゲーリーの説明で特に問題は発生しなかった。
表玄関と違い此方は、古めかしい扉だった。俗に言う勝手口だ。滅多に修理を行なっていないのか、扉の下部分が欠けてしまっている。ゲーリーは扉を開くと、ウィルを中に通す。
その瞬間、女性の悲鳴が響いた。
「だ、誰ですか!」
「えっ! えーっと……」
突然の女性の悲鳴に、ウィルはしどろもどろになってしまう。だが、次に入ってきたゲーリーの顔を見ると、ホッと胸を撫で下ろす。そして、ウィルは一体何者なのか尋ねてきた。
「ああ、仲間」
「お仲間?」
「そう、仕事仲間。だから、怪しい人物じゃないよ。で、部屋に飲み物と菓子を持ってきてほしいな」
「わかりました」
不審者ではないとわかったのなら、客人として丁重に御もてなしをしないといけない。女性――この家のメイドは深々と頭を垂れると、ゲーリーに頼まれた飲み物と菓子の用意に向かった。
「大丈夫か?」
「平気平気。メイド達は、頭がいいから。といって、お前の家の最強メイドとは違うけどね」
「まあ、あれは凄いね」
「噂に聞いているよ」
「あんまり、広げてほしくないな」
実家のメイド達を悪く言ってほしくないのか、それ以上この話をしてほしくないと頼む。やはり、これは聞いていていいものではない。ウィルの頼みごとに、ゲーリーはケラケラと笑う。
勿論、それはわかっている。わかっているからこそ、これ以上ウィルの家のメイドについて言うことはしなかった。