ユーダリル
一方ゲーリーも目の前にいる兄を苦手としているのか、額に汗が滲み出ている。それに会話の口調が、敬語が混じっている。それに何処か余所余所しく、上下関係はハッキリとしていた。
しかし、それだけではない。彼も早くこの状況から逃れたいのか、ツンツンっとウィルを突っ突いてくる。
だが、ウィルから話を止めるわけにもいかない。この場合、ゲーリーが頼りであった。二人の心情を理解していないゲーリーの兄デービットは、滑らかな口調で話しを続けていった。
デービットに気付かれないように、二人は突っ突き合う。どうやら、互いに擦り付け合っているようだ。
しかし、ウィルがどうこうできる問題ではなく、とうとうゲーリーが何とかすることにした。
「もう、いいですか?」
「うん? どうした」
「彼が嫌がっています」
「ああ、そうか」
自分でも長く喋ってしまったという自覚を持っているのか、此処で二人を解放してくれた。
とんでもない人物に捕まってしまったと、互いの顔を見合い苦笑する。特にウィルは、災難だった。言葉に毒は含まれていなかったが、長く喋られると精神面での疲労は半端ではない。
まるで、アルンに説教を受けたようだった。と言って、それを愚痴に出して言うことはしなかった。
「御免」
「いいよ。慣れているし」
「そう言ってくれると、助かるよ」
「しかし、兄貴とライバルとは……」
仕事面で様々な人物と交流を持ち、敵も多いということを知っていたが、まさかこんなに身近にライバルがいたとは、予想もしなかった。だが、ライバルといっても敵対関係ではない。
しかし、一応報告しないといけない。多分、彼のことも知っているだろう。だからといって、黙っていると後が恐ろしい。それなら、報告した方がいい。ゲーリーにそのことを言うと、特に反対されることはなかった。
「有難う。兄貴が怒ると、怖いから」
「その気持ち、わかるよ。よし! 気分転換で、茶を飲んで菓子を食べよう。で、愚痴を言い合う」