ユーダリル

「うわー、嫌だな」

 しかし、ウィルが一緒に行くのなら嫌がらないという。それだけ、ウィルに対して深い信頼を置いているのだ。流石にそのように言われたら、断ることができない。それに、一緒に行くのは嫌いではない。ただ、オークションに参加したくないというのが、本音であった。

 それを聞いたゲーリーは、嬉しそうに口許を緩める。彼の意見としては、一緒に来てくれるだけ有難かった。

「まあ、いいか。何より、ウィルが一緒にいるし。で、折角メイドが持って来たから飲んで食うか」

 ゲーリーはメイドが持って来てくれたティーポットを軽々と持ち上げると、カップに並々と注いでいった。それをウィルの目の前に突き出すと、美味いから飲んでみるように進めた。

「これ、結構上手いんだぞ」

「香りからして、ハーブか」

「ハーブティーは、嫌いか?」

「いや、そんなことはないよ。普段は、紅茶を飲むことが多いからね。兄貴が、茶葉に煩い」

 ウィル自信、紅茶の味に詳しい方ではなく、それほど拘る性格でもなかった。彼にしてみれば、飲めて美味しければいいという感覚だった。ウィルはゲーリーからカップを受け取ると、一口口に含み味を楽しむ。するとハーブ独特の苦味は薄く、どちらかといえば飲みやすかった。

「美味い」

「おっ! 良かった」

「いい物を飲んでいるね」

「これは、両親の趣味だ」

 趣味に関しても、ゲーリーはウィルと共通していた。彼も仕事以外の趣味は特に持っておらず、周囲の者が持つ趣味に付き合っている感じという。それを聞いたウィルは、二人で何か趣味を持とうかと提案した。

「何がいい?」

「得意分野は?」

「手先が器用」

「職業が職業だからね」

 と言って、簡単に趣味が見付かるものでもない。そもそも、簡単に見付かれば苦労しない。

 その時、ウィルの目に美味しそうなロールケーキが視界の中に飛び込んでくる。彼はそれを指差すと、誰が作ったのか尋ねた。
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