ユーダリル
「シェフお手製だ」
それを聞いたウィルは、ポンっと手を叩く。手先が器用ということなら、菓子作りを趣味にするのも悪くはない。それに、甘い物は嫌いではない。突然の提案にゲーリーは一瞬驚くが、よくよく考えれば悪い趣味でもないと気付く。また、身近にいい師匠がいるからだ。
師匠候補は、この家の専属シェフ。年齢は若いが穏やかで、菓子作りを教えてもらうのに最高の人物らしい。
やはり何かを教えてもらう場合、優しい人物がいい。怖い人物だと、やる気が削がれてしまうからだ。その考えに、ウィルは同調するように何度も頷いていく。この点は、経験済みだ。
どんどん話が進んでいく、菓子作りの話。相当この趣味が気に入ったのか、話に華が咲く。
その時、重要な部分に気付く。菓子作りを行なう場合、それが好きでないといけない。何せ菓子は、大量の砂糖とバターを使用する食べ物。下手すると胃が持たれ、嘔吐の原因になってしまう。
だからこそ、事前に甘い物が普通に食べられるかどうか、聞いておかないといけなかった。
「ウィルは、甘い物は平気か?」
「平気だよ。好きや嫌いというわけじゃなくて、どちらかといえば普通という感じかもしれない」
「俺、結構好きだ」
「甘党?」
「それに近い」
甘党といえば、どちらかといえば女が多い。といって、男がいないわけでもない。それに、男の甘党は可愛らしい。新たに知ったゲーリーの一面に、ますますいい印象を抱いていく。
ゲーリーはハーブティーを一気の飲み、パクパクとロールケーキを口に運ぶ。そして指に付いたクリームを舐めると、シェフに菓子作りの一件を頼みに行こうと言う。しかし寸前で、ウィルに止められた。
「その前に、自分達で作らないか。失敗で、もともとだけど。何だか、楽しそうじゃないか」
「おっ! それいいな」
「クッキーがいいか」
「あれは、小麦粉と砂糖とバターを混ぜて生地を作り、焼けばいいだけだったかな? 確か」
「詳しいな」