ユーダリル

「シェフに聞いた」

 と言って、自分で作ったわけでもないらしい。知識として持っているだけあって、実際に実行する勇気がないようだ。その為、今回ウィルと一緒に菓子作りをすることが楽しみという。彼の本音に、ゲーリーの料理の腕前を何となく悟る。間違いでなければ、彼は料理下手だ。

 と言って、指摘できるほどの腕前を持っているわけでもない。普通の料理は作れるが、菓子に関しては素人そのものだ。それにレシピも詳しい方ではなく、ゲーリーの説明に頷くしかなかった。

「じゃあ、それで作ろうか」

「場所は?」

「お前の家」

「俺の家は、無理だよ。代わりに、ウィルの家がいいんじゃないか。ほら、実家はでかかったし」

「此方も無理」

 この場合、真っ先にアルンの顔が思い浮かぶ。キッチンを借りて菓子を作っていると、アルンの性格上何も言ってこないわけがない。絶対に横から口を挟み、最悪馬鹿にするだろう。

 血の繋がった弟に対しても、アルンは平然とした表情で貶していくのだから、困ったものだ。

 はじめての菓子作り。

 やはり、いい気持ちの中で作りたいもの。その為、別の場所を探そうとウィルは提案していった。

「なら……何処だ?」

「ギルドは?」

「マスターが、何と言うか」

「大丈夫じゃないかな。断っておけば。あとは菓子作りに成功したら、それを少しあげて……」

「それでいいか」

「いいと思う」

 何事も、最初が肝心だ。二人はそれを知っているので、今回の菓子作りは失敗したくなかった。

 それを考えたら、マスターエリアの方が数倍いい。彼女は時折無理難題を押し付けてくるが、アルンやゲーリーの兄よりいい。それに、きちんと説明すればエリアはわかってくれる。

 それなら、ギルドに設置されているキッチンを利用するのが一番だろう。そうと決まれば、菓子の材料を買いに行かないといけない。
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