ユーダリル
しかし二人は、完全に無視した。
「油断も隙もない」
「以前のマスターより、注意しないと」
彼女の場合、どのようなことにも首を突っ込む。それに今の話に突っ込まれたら、何を言われ
るかわかったものでもない。その為、彼等は急いで逃げ出してきた。逃げ込んだ場所は、菓子作りを行なうキッチン。それほど広い場所ではないが、菓子作りには十分な広さだった。
ウィルはテーブルの上に菓子用の材料を丁寧に置くと、ゲーリーと一緒に道具を探していく。だが、すぐに使用するわけではない。これは長い日数仕舞っているので、所々が汚い。
このまま使用してしまったら、腹を壊してしまう。二人は道具を手に取ると糸瓜(へちま)スポンジを使用し丁寧に洗っていった。
「これでいいか」
「いいんじゃないか。結構、綺麗になっているし。で、菓子作りは素人だから、レクチャー宜しく」
「そんなに期待されても困るな。知識として持っているだけで、実行したわけではないから」
「でも、宜しく」
「お、おう」
ウィルに期待され、ゲーリーは戸惑いを覚える。しかし、道具を拭く手を止めることはなかった。
今回の菓子作りの裏側には「エリアに食べさせる」という最大級の難題が待っているからだ。ギルドのキッチン使用の条件に、エリア作った菓子を食べさせると口約束してしまったのだ。
二人は同時にそれを思い出したのか、ガックリと肩を落とし項垂れてしまう。そして、これもまた同時に溜息をついた。
「作るか」
「だね」
「気が重い」
「それ、一緒」
「でも、頑張らないといけない。此処で気を抜いたら、マスターに不味いクッキーを食わせることになる」
「それが一番困るよ」
「じゃあ、気合を入れ作ろう」
ゲーリーの言葉に何度も頷くと、購入してきた材料を測っていき、綺麗に洗った道具の中に入れ、混ぜ合わせていく。