ユーダリル

 バターは常温で溶かすのが一番だが、今その時間はなかった。そしてゲーリーが思い付いた方法は、バターを鍋に入れ火の上で溶かすという方法だった。勿論、この方法は失敗も大きい。

 バターは、物凄く溶けやすい。長時間火の上に鍋を置いておくと、全てが溶けてしまう。それを聞いたウィルは、どうせ全部を混ぜ合わせてしまうのだから、全部溶けてもかなわないのではないかと意見するが、半分溶けたバターを入れるのが重要だと、人差し指を上げ説明していく。

 しかしいくら説明を聞いても、菓子作りの経験がないウィルにとっては難解そのもの。その為一通り説明を受けた後ウィルは、バターに関してはゲーリーに任せることにした。それが、一番確実だからだ。

 ウィルの頼みにゲーリーは頷くと、火を熾しバターを鍋に入れていく。そして溶け具合を確認しつつ、ちょうどいい硬さに溶かしていった。まさに、一瞬の出来事。その素早さに、ウィルは拍手を送った。

「大袈裟だよ」

「でも、微妙なタイミングと見た」

「そうだね」

「だから、拍手」

「うーん、照れるな」

 まさか、バターひとつでこれほど褒められるとは――ゲーリーの口許は、ひとりでに緩んでいった。

 勿論、悪い気はしない。

 すると彼は調子に乗ったのか、材料を混ぜ合わせる道具を器用に一回点させる。しかし油断が生まれたのか、床に落としそうになってしまうが、床に落ちる寸前でウィルが掴んだ。

「……御免」

「危うく、マスターに床のゴミを食わすところだったよ。まあ、綺麗に洗って使用するけどね」

「気を付ける」

「それがいいよ。で、溶かしたバターを小麦粉と砂糖を混ぜた中に入れて、混ぜ合わす……だよね」

「そうだよ。俺が少しずつ入れるから、ウィルが混ぜ合わせてほしい。結構、力が必要だぞ」

 その説明に軽く頷き返事を返すと、ウィルはグルグルと材料を混ぜ合わせていく。説明があった通り、徐々に生地が重くなってくる。しかし美味しいクッキーを作る為と、頑張って混ぜ合わせた。

「これでいい?」
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