ユーダリル
黒の目撃者
昼下がりの午後。
ディオンは庭で、ゴロゴロとしていた。
今、主人のウィルは趣味の菓子作りを楽しんでいる。その邪魔になってはいけないと、庭で待っていたのだ。
ふと、ディオンの耳が動く。
同時に身体を起こすと、周囲に視線を走らせた。
何処からか、人間の話し声が聞こえてくる。ディオンは首を傾げると、声が聞こえてくる方向に歩いて行った。
声の主は、二人。
アルンとセシリアだった。
何か込み入った話をしているのか、二人とも真剣な表情を浮かべている。また時折、アルンがはにかんだ。
刹那、事件が発生した。
何と、アルンがセシリアの腕を掴んだのだ。それを目撃したディオンは、アルンがセシリアを苛めていると勘違いする。その為ドスドスと窓の側に駆け寄ると、窓硝子を顔で叩いた。
力強いディオンが叩いたことにより、硝子の一部が砕け散る。突然の出来事にアルンが宥めに行くが、相手はセシリアを苛める憎い相手。彼が近付いてきた瞬間、口を開き威嚇した。
「お、おい」
何故、怒っているのか。
全く意味がわからないアルンは、再度宥めていく。しかし怒り狂っているディオンが、彼の言葉を受け入れるわけがなかった。
今度は、鋭い牙で噛み付いてくる。だが、寸前で攻撃をかわしセシリアのもとへ逃げて行く。
「何をなさったのですか」
「知らない」
「ディオンは、大人しいです。それは、ウィル様が保障しています。それが、このように……」
「知らないものは、本当に知らない」
「本当ですか?」
不信感たっぷりの視線を向けてくるセシリアに、アルンは必死に弁解していく。だが、現在の状況では信じてはもらえない。それどころか、ますます不信感が強くなってくる。長々と言い訳を続けているアルンに、珍しくセシリアが愚痴を言う。そして、何を思ったのかディオンの側へ行った。