ユーダリル

 そう、その人物というのは、ディオンの主人のウィルであった。

「これ、何?」

 アルンの私室の窓硝子の一部が砕け散っている。それを見たウィルは、何があったのかセシリアに尋ねていた。普段の彼女だったら、冷静に先程の出来事を話していく。しかし今回は、口籠ってしまう。

「いえ、何でも……」

「セシリアさんらしくないよ」

「では、本当のことを言います。窓硝子を割ったのは、ディオンだったりします。理由はわかりません」

 セシリアの説明に、ウィルは反射的にディオンの顔を見る。一方のディオンは気まずさを覚えたのか、しょんぼりとしていた。

「あまり、怒らないで下さい」

「どうして?」

「理由はわかりませんと言いましたが、誰が責任かというのはわかります。アルン様を襲いましたので」

「兄貴を?」

 驚き唖然となってしまうが、理由はわからなくもない。アルンの敵の多さは、半端ではない。

 それを考えると、敵の中にディオンが含まれていてもおかしくはない。いや、日頃ウィルに無理難題を突き付けているのをディオンが目撃していれば、アルンに襲い掛かるものだ。

 敵が、人間以外にも増えた。

 次の瞬間、ウィルはやれやれと肩を竦めていた。

 また、溜息を付く。

「で、兄貴は?」

「メイドを呼びに行きました」

「兄貴が自ら行くって、珍しい」

「ディオンに、また襲われたくないからでしょう。あの鋭い歯で噛まれたら、一溜まりもないです」

 ディオンは大人しい生き物だが、種族は飛竜。頭をガブっと噛まれた場合、頭が粉砕してしまう。それを恐れたアルンは、自らメイドを呼びに行き安全な場所へ逃げていったのだ。

 その時、部屋の扉が開く。やって来たのは、噂の人物のアルン。すると弟の姿が視線の中に入ったのか、何処か気まずそうな表情を作る。しかし兄としての威厳を保ちたいのだろう、ビシっと人差し指をウィルの方に向けると、どうして其処でセシリアと話しているのか尋ねた。
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