ユーダリル

「偶然」

「嘘だ」

「疑い深いよ」

 先程のやり取りがいまだに尾を引いているのか、アルンの疑いが続く。だが、セシリアの指摘で兄弟喧嘩に勃発することはなかった。その指摘というのは、呼んできたメイドを待たせてはいけないということだ。

 彼女は、アルンの私室を掃除する為に呼んできた。だというのに、彼女をそっちのけで兄弟喧嘩がはじまりかけていた。セシリアの指摘に、アルンは沈黙しメイドに掃除を任せた。

 メイドは箒と塵取りで、砕け散った硝子を片付けていく。一方アルンは邪魔になってはいけないと、部屋の隅に椅子を置きそれに腰掛ける。またセシリアは、壁に寄り掛かっていた。

 そして残ったウィルはディオンを連れ、中庭に行った。いつまでもアルンの側にいると喧嘩をしてしまうと考えたのだろう、セシリアに目配せし合図を送ると、中庭へ歩いていった。

 これにより、暫く平穏が続く。




 しかし、本当の意味での平穏が訪れたわけではなかった。ウィルにしてみれば「何故ディオンが、窓を壊しアルンに襲い掛かったのか」という疑問が、いまだに解けていなかったからだ。

 だが、ディオンに聞いても喋れないので、理由を聞くことができない。ならアルン本人に聞けばいいのだが、話してくれるわけもない。

 一体、どうすれば――

 中庭で仕事用の道具の手入れをしているウィルは、悩んでいた。何だかんだで、ウィルはアルンを心配していた。

 だが、口に出さないのは恥ずかしいから。それに心配する素振りを見せると、アルンが嫌がる。

 といって、セシリアは深く真相を知らない。

 ウィルは自分の側で休んでいるディオンの鼻先を突っ突くと、どうしてアルンを襲ったのか自分なりに考えていく。

(兄貴は、日頃……いや、違うか)

 ディオンが卵から孵った当初から、アルンはディオンを何処か嫌っている部分があった。いや、それは本気で嫌っているわけではないが、生まれたばかりのディオンが理解できるわけもない。幼少の頃のトラウマが関係しているのか。よくよく考えると、アルンは罪深い。
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